資産運用や株式投資をする際に、自分の中で核となる価値観のようなものがあると、心がぶれずに落ち着いて運用に取り組むことができます。その意味で僕の中である種のバイブルになっている本があります。
この本は大学時代に友人の勧めで貸してもらって読んだもので、その当初は資産運用などほとんど興味がなかったのですが、結果としてはそのポリシーが現在にも影響するほど、僕にとっては重要な本でした。この本を貸してくれた友人には本当に感謝しています。
今日はその内容の中でも、僕が大切だと思う点、今の投資姿勢に生きている点などを紹介してみたいと思います。
著者について
富山県出身。東京大学卒業後、日銀に入行。13年勤務後コンサルタントに転身。本書では投機的な資産運用を戒め、家計の守りを固めること、自分の本業のための自己投資を最優先することなど、堅実な正論を繰り返している。
自分の資産の一覧表を作る
投資や資産運用を考える前に、まず自分の資産がいくらあるのか、負債はあるのか、これを把握することが重要だと説いています。そしてその資産や負債を証明するためのエビデンスに常にアクセスできるかどうか(預金通帳や残高証明など)。
僕はこれを読んでからエクセルで自分の資産の記録を毎月つけることにしました。
自分の資産の一覧を把握しないと、まずどれぐらいを株に突っ込んでもいいのかを考えることができません。
株は必ず投資金額の上限を決めてやる必要があります。FXと違って、いったん下がったらすぐに損確定、ということにはなりませんが、下がったままで耐えなくてはならない期間もそれなりにあります。だから際限なく資金を投じていると生活に影響をきたすことになります。株で資産を築きたとは思いますが、株と心中する気は毛頭ありません。読んでいるあなたもそうだと思います。
そのためにも資産を把握し、自分が株式に投資できる金額の上限をはっきりと見定めることは重要です。それはこの本を読んで以来常に肝に銘じていることです。
支出をコントロールする
本書の特徴は、「投資戦略」と言いながらなかなか「投資」そのものについて語り始めないところで、私はそれが非常に重要なことだと思っています。いくらいい投資戦略を語ったところでその基礎がない人に語っても効果が出ません。その意味で「資産リストを作る」のに次いで出てくるのは「支出のコントロール」。
株で一儲けしようという人には、そんなことはどうでもいい、と感じるかもしれませんが、筆者は言います。「支出のコントロールには強い意志が必要だ。その意志の強さのない人が株式投資で成功することはできない。」
そしてまた、よく言われることですが、支出のコントロールというのは株の相場や景気にかかわらず自分の意志だけで実行できます。1%の運用利益を上げられるかどうかはどれだけ努力しても相場に依存しますが、支出のコントロールは100%自分の意志でできます。1,000円のものを買う必要があるときに900円のもので我慢すれば、それだけで10%の利回りを上げたのと同じことになるのです。
生活防衛資金をためる
では何のために支出をコントロールするのか。それがこの「生活防衛資金」です。筆者の言う生活防衛資金というのは、「今の生活水準を2年間維持するために必要な資金」のことです。これを2年分貯める、ということが資産運用を始める準備として提言しています。 この概念も本書を読んで以来僕の中に根付いています。 これがあるから安心して株に投資でき、リーマンショックやコロナショックが起きても平常心を失わずに仕込みに集中することができます。
本書を読んで一番身についた概念というのはこの生活防衛資金という考え方で、20代の頃にこの考え方に触れられたのは本当に有用だったと思います。
生活防衛資金を2年分貯めるのが大変だと思う人がいるかもしれません。その場合にまず考えるべきことは支出を減らすことです。月30万円で暮らしている人にとっての生活防衛資金は720万円になりますが、これを25万円に減らせると600万円で済むのです。少ない支出で生活できるということは心を落ち着けて暮らしていくためには重要なポイントだと、脱会社員を目指す僕にとっては、特に感じられます。
自分に最大限投資する
株に投資する以前に投資するべきなのは自分。自分の本職で経験とスキルを徹底的に磨き、その能力を高めろ。一つの道を極めることで本職の安定した収入を確実するができ、その先には社会の趨勢や動向を読む力が養われるので、株式投資においても成功率が高まる。
本当に正論だと思います。
働くことに対して、前向きな気持ちを持てている人に対しては、十分にかみしめる価値のある言葉だと思います。
ただ、一方で僕の場合にはここはまったく心に響きませんでした。
そもそも本業に集中して能力を高める努力ができるぐらいの、精神力の高さがあるならば、資産運用に救いを求めなくても、充実した人生を生きていくことができるでしょう。
老後に不安を覚えるのは、このまま仕事を続けていけるのか、このまま会社が存続していくのかということに不安を覚えるからだと思います。一つの道を究められるぐらい、仕事に集中できている人には、資産運用はあまり必要ないのではないかと思います、それが趣味というのでもない限りは。
ライフプランとマネープランを作る
これはファイナンシャルプランナーのような人もよく勧めている方法で特に目新しいことはありません。つまりは自分のライフプラン(主に結婚とか住宅購入など)を考え、それに応じて必要な先々のカネの算段をしておこうということです。
私も本書を読んで「キャッシュフロー表」というのを作り、これから先どのようなコストがかかっていくのか、今の収入と支出が続けばどのあたりで債務超過に陥るのか、どれぐらい収入を上げないといけないのか、老後はどれぐらいのレベルの生活ができるのか、ということを試算しています。これは私の心を落ち着かせるためのツールともなっているので、是非お勧めしたいです。
個人投資家の強みはGrow Rich Slowly
機関投資家というのは、資金を集め続けるためにそれなりに成果を見せ続ける必要があります。パフォーマンスを常に出資者に監視されているので、一定期間で成果を出せないと長期保有するメリットがあると思っても短期で損切りをしないといけなくなります。株価が下がるとファンドマネージャーの精神的重圧も大きくなります。
しかし個人はそのようなプレッシャーはありません。いくら含み損が出ようとも長期保有する価値があると自分で考えるならば保有しておけばよいのです。株式市場は20年や30年という単位で成長を続けます。つまり5年や10年では損になる場合でも、もっと長期保有すれば利益が出る可能性が高まっていくのです。そこに個人投資家の強みがあります。つまり、ゆっくりと金持ちになろうということです。
住宅ローンについて
筆者は住宅ローン反対派です。その理由としてこのような点を挙げています。
- 金利変動リスク
- 資産価値下落リスク
- 返済原資リスク
この点については基本的に同意できますが、条件によっては一概にそうとは言い切れないケースもあると思っています。
例えば本書は2001年に発行されたもので、デフレや低金利が定着し始めたころのものですが、筆者のスタンスはこの低金利が20年も30年も続くだろうかという、いわゆるインフレ懸念論調です。僕もインフレの懸念は常に頭にあります。しかし現状の経済前提や経済見通しを考えたときに、日本経済が急激にインフレに向かうとはとても考えらません。少なくとも本書発行時から約20年たった今でも低金利政策に変化の兆しはありませんね。2%のインフレターゲットを設定しも達成できていない。つまり前提がだいぶ違ったということになります。
住宅ローンについては僕もかなりのリスクだとは思いますが、そうではない場合もあると思います。それについては別の記事にしてみました。
投資信託について
資産運用で嫌な思いをしないためにも、筆者の投資信託についての考え方はぜひ読んでおいたほうがいいと思います。
投資信託は基本的に手数料で稼いでいるから、販売者はどんな内容のものでもとりあえず売ろうとする。なかには悪徳業者や販売者も存在し、甘い言葉で誘惑してくるファンドも多い。運用主体はその結果には責任を負う必要がないので結局失敗したときに公開するのは購入者だけだ。そんな思いをするぐらいなら自分でしっかり見極めて決断した銘柄に資金を投じるほうが、よほど勉強になるし失敗してもあきらめがつく。どうしても投資信託というのなら、手数料がゼロで市場全体に連動したインデックスファンドだ。
私も投資信託なら手数料ゼロのインデックスファンド、という主張には賛成です。私は日経平均、海外株式、新興国株式の3つのインデックスファンドに積み立てをしています。たまに大きく株価が落ち込んだ時に手動でで買い増しをしています。ファンドマネージャがアクティブ運用して手数料を稼ぐような投資信託には全く興味がありません。それで損を出した時の怒りのぶつけようがないというのがあるし、何よりも実績としてインデックスファンドに勝てるアクティブ投信はほとんどないのです。「サルにダーツを投げさせて当たった銘柄を購入しても運用性精機はほとんど変わらない」というのが定説になっています。
まとめ
書かれた時代はもう20年も前ですが、特に前半の資産運用を始めるにあたってのマインドセットや資産管理手法については、時代を超えて有効な方法だと思います。僕は若いころにもっとやっておけばよかった、どうしてできなかったんだろうと思うことがよくありますが、金融リテラシーについては比較的身につけられたと思っています。それもこの本のおかげだと思うと、筆者には感謝の気持ちを抱かずにいられません。
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